• 我孫子・柏・印西のリノベーション - ART-VILLAGE | アートビレッジ -
アーティスト・イン・レジデンスで作品を制作 ノスタルジックな心の居場所を描く画家・時任海斗さん
Profile
時任 海斗 / Kaito Tokito

日常とは別の場所にあるユートピアを描く。 静と動を一つの画面に共存させ、どこかノスタルジーを感じさせる、エネルギッシュで暖かい画面を目指している。
デザインとアートを暮らしに取り入れた空間を提案する「ART VILLAGE|アートビレッジ」プロジェクト。大規模団地「我孫子ビレジ」などにおいて、住まいを通して新しい物語を始めていただく「リボーン」を踏まえたリノベーションをご提案しています。

2024年4月には、プロジェクトの一環としてアーティスト・イン・レジデンスを実施。3週間我孫子市で暮らし、創作を行ったのは、大阪府在住の画家・時任海斗さんでした。今回はプロジェクトを牽引する中澤洋一さんの想いや、時任さんが我孫子に暮らして感じたこと、制作において変化したことなどについて取材しました。 

我孫子からアート・文化を発信し、私たちにしか出来ない「街創り」を

―――まずは中澤さんがアーティスト・イン・レジデンスを始めたきっかけを教えてください。
中澤 : 原点にあるのは、僕が経営する不動産会社・晃南土地の企業メッセージ “私たちにしか出来ない「街創り」を”です。これを軸に、2019年に手賀沼公園でのイベントを行って多くのクリエイタ-と出会い、多様な感性に触れる中で、今までにはなかったアイデアが浮かぶようになりました、

2023年にグッドデザイン賞受賞した「ART VILLAGE|アートビレッジ」もその一つです。1000世帯の集合団地の1室をモデルルームにし、デザイン・アートを暮らしに取り入れ「住まいに物語が生まれるように」との想いでリノベーションを行いました。住宅のあり方が変化する中、これまでリフォームを実現できなかった人々をサポートでき、全国的に問題となっている古い団地再生のモデルケースにもなれたと思います。

こうした活動を行いながら、あらためて我孫子が保有する文化の大切さにも気づかされました。我孫子には大正時代に白樺派の文人が住み創作を行ったという素晴らしい歴史があり、常磐線沿線の取手や上野には東京芸術大学もあります。

アートに縁の深い我孫子の不動産会社として新たに出来ることを考え、出た結論がアーティスト・イン・レジデンスでした。これをきっかけに我孫子に住むアーティストが増え、我孫子の魅力が広まれば、人口増加や商業の発展につながり、地域活性化にもなると考えたんです。

それぞれの街創りや作品制作に共通するノスタルジックな感覚

――― アーティスト・イン・レジデンスに時任さんをお招きしたのは、どのような流れだったのでしょうか。

中澤 : 2023年に銀座のFEEL SEENというセレクトショップで時任さんの絵に魅せられたのがきっかけです。鮮やかな色彩と大胆な筆触で描かれた野原と空の景色が、何だか我孫子を感じさせてくれるな~と思って眺めながら、中央にある三角屋根の家に引き込まれていくような感覚もありました。僕は手賀沼に好きなけやきの木があるんですが、その木も連想させてくれました。その後、時任さんが個展を開いた時に会いに行くと、いい意味でオーラとか情熱を感じさせず(笑)、深く自分を探究している方という印象を受けました。

時任 : 中澤さんはおしゃれで、不動産会社の社長というよりも、インテリアとか洋服系のお仕事の方みたいだなと思いました(笑)。

中澤 : 2人で1時間ほど話して意気投合しましたね。なぜ動物を描いているのか、と尋ねたときに聞かせてくれた、アメリカの話も面白かったです。

時任 : 大学生の時、半年ほどアメリカに住んでいたのですが、夜に田舎の住宅街を歩いていたら、目の前に大きな鹿が現れたんです。目が合った時、恐怖もあったのですが、同時に不思議と気持ちが安らぐような、時間が止まったような感覚がありました。

日本に帰ってから、忙しい日常の中で視野が狭まったり苦しいことがあったりしても、その瞬間を思い出すことで、頭の中の別の居場所に行けるような感覚があります。

僕は誰かにとってのそういうものを、絵として表現したいと思っているんです。この感覚を言語化しようとした時に「ノスタルジア」という言葉が浮かび、今度の5月に神戸で行う個展のタイトルも「たとえばノスタルジア」にしたのですが、最近、中澤さんもA-lifeの記事で「我孫子を言葉にするならノスタルジア」と書いているのを見てびっくりしました。

中澤 : その後、我孫子に来てくれた時任さんに、クリスマスに我孫子駅前の店舗に飾るツリーのオーナメント制作をお願いしたんですよね。
時任 : そのオーナメントを飾ったツリーを見に、冬にまた我孫子に伺った時に、アーティストレジデンスの話をいただきました。元々滞在制作は夢だったんです。普段は絵の制作だけでなくアクセサリーブランドも営んでいるので、日常から離れて制作をしたり、自分と向き合ったりする時間が欲しい、とずっと思っていました。

滞在を通して、絵を構成する一つひとつの存在を大切に扱いたくなった

――― 実際に住んでみて、我孫子の印象はいかがですか?
 

時任 : 我孫子駅前のマンションに滞在していますが、歩いてすぐに行ける手賀沼と、その周辺に整備された公園もあって、自然との距離感がいいなと感じます。東京に近いのに、都市化されすぎず穏やかな雰囲気で、僕も中澤さんと同じように、我孫子にノスタルジーを感じます。
都内で自分の展示をしたり、行きたいアート展やライブに出かけたりしやすいところも魅力ですね。自然の中で制作ができ、距離も近い東京で発表の場を持つこともできる環境で、大正時代に我孫子にいた柳宗悦さんが、志賀直哉さんなどの仲間を呼び寄せた気持ちもわかります。
――― 我孫子では、毎日どのように過ごしているのでしょうか。
 

時任 : 我孫子に来て2週間になりますが、現時点で2つの作品を制作しています。1枚は、ハクチョウや水辺を描いた、我孫子の風景に近い絵です。
我孫子で初めて大きなコブハクチョウを見た時は、アメリカで鹿を見た時と同じ感覚がありました。コブハクチョウが道端にいるって、地元の方には日常みたいですが、普通はない景色ですよね(笑)。

もう1枚は1辺が116センチの大きい絵です。我孫子の風景を描いたのではありませんが、我孫子でいつもよりじっくりと自然や街を観察する中で「絵に構成される一つひとつの植物や、小さなものたちを大切に扱いたい」と感じた気持ちを込めています。
制作をしながら、体が固まってきたら動くようにしていて、ほぼ毎日散歩に出ています。ドラッグストアに買い物に行って、気づいたら自転車を借りて手賀沼を一周していたことも(笑)。あとは公園のベンチに座ってぼーっとしたり、図書館で白樺派にまつわる本を借りて読んだりしています。   

雑誌「白樺」のように、じっくりとプロジェクトを育てていきたい

――― 時任さんの滞在はあと1週間です。今後はどのような展開を考えておられますか?
 

時任 : このまま我孫子に住んでしまいたい気持ちもありますが、家庭もあるので(笑)。でも住むのでなく、別の街に住む者だから気づけることもあると思うんです。

先日は中澤さん主催の、我孫子在住のクリエイティブな仕事をしている方々との交流会にも参加し、さまざまな視点からの考えやアドバイスを伺えました。今回の滞在制作で作品を残すだけではなく、これからも我孫子の人たちとつながりながら、街創りのために自分にできることをしていきたいです。
中澤 : 白樺派の文人たちが我孫子に暮らしたのも一生のうちの一時でした。今回は、通常のアーティスト・イン・レジデンスとは違い、滞在中に成果を求めるのではなく、時間をかけてプロジェクトを育てていきます。成田と東京の間に位置し、パワースポット的な側面もある我孫子の魅力を、外からやってくる現代の白樺派のようなアーティストの方々にどんどん発信してもらい、街創りに反映していきたいです。
時任 : 白樺派の文人たちが制作した雑誌「白樺」の創刊号を読みましたが、創刊にあたって武者小路実篤さんは「白樺は自分たちの小なる力でつくった小なる畑である」と書き、そこに好きなものを植えていくので、10年後を見て欲しい、といった内容を続けています。それを読んで、中澤さんの街創りへの姿勢にも似ていると思いました。

増え続ける我孫子市の空き家対策にも貢献していきたい

中澤 : アーティスト・イン・レジデンスを始めたもう一つの目的に、全国的にも問題となっている空き家対策があります。空き家増加の原因は、貸し出す際に高額なリフォーム費用が必要なことが挙げられます。そこでアーティストの方の住居兼アトリエとして、現状のまま相場より安く貸し、返却の際にも現状のままで返してもらう契約にすれば、多くの所有者の方が気軽に貸し出せるようになります。
街創りは不動産会社としての役割であり、今年新卒で入った社員たちもその分野に対して意欲的です。今後も地域密着型の企業として、我孫子の活性化のための取り組みを行っていきます。

(構成/野中真規子)
時任さんによる我孫子滞在日記はこちらからご覧いただけます。
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晃南土地株式会社について

晃南土地株式会社は我孫子市の賃貸物件・不動産売買・駐車場などを取り扱う、地域密着型不動産会社です。

“私たちにしかできない街創りを” を企業メッセージとし、我孫子に住むひとりひとりが街づくりを『自分ゴト』として楽しむ街へ。そのために私たちは先頭に立ち挑戦しつづけます。